ディープテックベンチャーの起業、
ディープテックベンチャー企業への投資
革新的な発明/発見/発想から事業化までは、項目1で記載した電球の例のみならず、何十年という期間が必要になる場合があります。たとえば水素燃料電池、リチウムイオン電池、有機EL、炭素繊維も然り。おそらく2009年に論文発表されたペロブスカイト太陽電池も、大きな事業になるのは2030年ごろと言われています。もしかすると2035年以降かもしれませんし、変換効率や耐久性が不十分なまま、一部の使用法を除いて普及しないかもしれません。
このようななかでも「革新的な発明/発見/発想をしたからベンチャー企業を立ち上げで事業化しよう」との考えが、特に大学で基礎研究をしてきた方に多く見られるように思います(→以下①)。また、発明/発見/発想に魅了され、こういったベンチャー企業に投資しようとするファンドも多く見られます(→以下②)。このこと自体は、イノベーション創出に向けて非常に好ましい動きだと思います。
しかし、いくつかのベンチャー企業に関与したり、投資ファンドの方と意見交換したりしてきたなか、以下のような問題意識も感じています。
- イノベーション創出や事業化までには、革新的な1つの発明/発見/発想以外に
- 市場要求を満たしたり、付加価値を向上させたりするためのインテグレーション
- 安心して多くの顧客に価値を提供するための耐久性向上や量産性付与
- 市場環境整備
といった多くの課題があることに気づいていないのではないか。発明/発見/発想がすぐに売上/利益に結びつくとの勘違いや、必要な課題形成~課題解決を無視あるいは放棄しているのではないか。
- 事業化までに数十年の年月がかかる可能性もあるにも関わらず、投資ファンドの期限が10年以下であることが多い様子。事業化の最後までサポートできるのだろうか。
以上のようなことを踏まえて私は、新たな革新的な発明/発見/発想をイノベーションに結びつけるため、以下のような取り組みが重要だと思っています。
- 事業に結び付けるための戦略ストーリーを、早期に作ること
- 事業化までに必要な課題(電球の例でいえば耐久性向上や送電インフラの整備)を挙げ、優先順位を考えること
- 自社開発か他社と協業するかなども含め、早期に課題解決法を考えておくこと(着手するかどうかは別にして)
- 数多ある課題解決の迅速化、効率化を図ること
- 初期に策定したストーリーや戦略にとらわれず、市場動向や競合動向に応じて、タイムリーに戦略や課題を見直すこと
- 成功するかどうかが不透明な場合が多くあるなか、人、金、モノといったリソースについては、適切なステップを踏んで投入していくこと。
ただし、ゴール、ストーリー、対象市場、開発課題によっては並行検討(アジャイル開発、コンカレントエンジニアリング)したり、一気呵成にリソース投入したりすることが良い場合もあり得ますが。 - 場合によっては、最初に描いたメイン事業のみならず、手近な収益確保の路線も検討すること(3M社におけるプロジェクト マイグレーション プランニングの考え方)