2. 発明/発見とイノベーション(ゼロイチ、新結合/インテグレーション)

発明/発見とイノベーション
(ゼロイチ、新結合/インテグレーション)

表題のことに関して、かつて私が見聞きし、思ったことを2つ書きます。

(1)「ゼロイチ経験者を求む」

とあるベンチャー企業の人材募集要項に「ゼロイチを経験した人」とい記載があることに気づきました。

「ゼロイチ」とは、まだ世の中に存在しない(ゼロの状態から)新たな製品、サービス、価値を作り出す(イチにする)ことを言うそうです。であれば、新製品を開発したり新事業開発に関わった人を求めているのだろうとは思います。

 しかし新製品や新規事業の開発のほとんどは、過去の技術や知見を参考にしたり、過去や他の社会での事例に基づいたりして(タイムマシン理論)生み出すもの。これを天地創造のごとく「ゼロイチ」「無から有へ」と言ってしまって良いのだろうか、と思いました。

 幸いなことに私は、多くの新製品を世の中に出すことに関わりましたが、もし上記のベンチャー企業に応募して採用面接で「あなたのゼロイチの経験を紹介してください」と聞かれたら以下のように答えようと思いました。

「ゼロイチの経験はありません。新製品開発に従事したことはありますが、いずれも過去の技術や先人の知恵を活かすことで実現したので、ゼロイチではありませんでした。温故知新が大事だと思っています」と。

(2)「新規事業創出は研究者、R&D部門だけのミッションだ」

 私が某メーカーの研修プログラムに関わったとき、新規事業創出についての講義を受ける人の人選を求められました。そこで私が、営業、製造、研究開発、バックオフィススタッフといった部門の方々を挙げたところ、人事部門の方から「なんで研究開発部門以外の人をいれるのか。製造部門やスタッフ部門なんて関係ないだろう」と言われて驚愕しました。

 商社やサービス業界であれば、こんな発言をする方はいないと思いますが「この会社は過去ずっと、研究開発部門が科学技術に基づいて開発した製品を売るだけの会社だったのだな」と思いました。

 新たな付加価値創出/イノベーションを、私は以下のように捉えています。

  • 「新結合」であって、多くの場合は、過去あるいは他の社会にある様々な事業事例や技術を活用しつつ、それら組み合わせ、社会ニーズと結びつけることで生み出される。
  • 科学技術上の発明/発見や技術開発が必須では無い。また、研究開発部門だけではなく、営業部門、製造部門、スタッフ部門がニーズ把握、プロセスイノベーション、制度構築や支援を行うことで実現できる。

 ちなみに、発明協会による「戦後日本のイノベーション100選」の中で、私が「なるほど」と思った例を幾つか以下に挙げます。

  回転寿司、スーパーカブ、インスタントラーメン、ヤマハ音楽教室、カラオケ、

コンビニエンスストア、宅急便、道の駅、QRコード

 最近は、AIやDXを活用する新規ビジネスが注目されています。これは新たな「結合するアイテム」として重要だとは思います。しかしこのような流行は、あらためて過去のイノベーション事例を見ると、楠木先生が言われている「飛び道具トラップ」に陥っているのではないかと危惧する次第。もっと多様な結合を見落としているように思います。

<参考図書>
「野生化するイノベーション」清水洋
「逆タイムマシン経営論」楠木健、杉浦泰