AIと人間
(AIの活用と人間力)
AIの力が急成長し、かつては実現が疑問視されていた芸術品を生み出すこともできるようになってきました。仕事でもAIを活用することで効率化できる部分が多く出てきたと思います。私自身も、目的に応じChatGPT、Copilot、Geminiを使って調査したり、一次見解を求めたりもしています。
このようななか、AIに仕事を奪われるという予想記事が多く見られます。確かに、囲碁や将棋のように最終ゴール(目的)やルール(基準)が明確で手段が有限である場合、人間がAIを上回るのは困難だと思います。
一方、「チェスも将棋も囲碁も人間がAIに勝てなくなったにもかかわらず、なぜ人間同士の対局に興味が行くのだろうか」「人間の価値はどこにあるのだろうか」といった議論も見られます。もちろん、速く走るだけなら自動車の方が速いのに、オリンピックの陸上競技が無くならないのと同様、「生身の人間同士が戦うドラマに魅力を感じる」といた側面はあるでしょう。しかし、それ以外にも「人間ならではのこと」や「今ところは人間が行うべきこと」ととして、以下があると私は思います。
- 目標(何を目指すのか)や課題設定、真善美を含めた価値判断や優先順位の決定
映画「2001年宇宙の旅」では、「人間を守る」「木星探査を成功される」という2つの目標を与えられたコンピューターが、木星に行く途中で2つの目標に矛盾が生じたことに気づいて判断不能に陥ってしまう、ということが暗示されています。
何が重要な目標だと考えるか、そして逐次、判断基準や優先順位を見直すことは、人間が行うべき重要な側面ではないかと思います。
- ユーティリティー性、外挿力、応用力
将棋で佐藤天彦名人(当時)を破ったソフト「ポザンナ」が、類似のゲームであるチェスで初心者に勝つのに、どのぐらいを要するでしょうか。ある程度の強さに到達するまでに、おそらくチェスのルールや過去の対局を学ぶ工数が少なからず必要でしょう。一方、羽生善治はチェスでも日本有数のプレーヤーでもあります。たぶん、ちょっとした説明を元に将棋とチェスの類似性を理解し、ごく初期から或る程度の力を発揮できたのではないかと思います。
生成AIが芸術品を生みだせるようになったとはいえ、深く学んだ1つの知恵を横展開する応用力や外挿力は人間の強みの一つではないかと思います。
- 分析力、説明力
将棋AIについて次のようなことが語られたことがあるそうです。「AIの強さが絶対的になっても、(なぜその手を選んだのかを解き明かし)着手を選択した理由を説明できません。『何故か』を言語化することも、棋士の役割の一つになると思います。」
AIが回答を導き出す方法と人間の思考過程とが異なるため、現時点でAIは人間の思考過程に合わせた説明ができず、人間の考えに翻訳する別の仕組みが必要なようです。
- 責任を負う
現時点での大きな課題は「AIは責任を負ってくれない」ということだと思います。たとえば、AIの診断で誤診があっても最終責任は医師にありますし、今のところ自動運転で事故が起きれば運転者の責任になります。
上記の(3)や(4)に関する問題意識は、1971年に発行された星新一のショートショートで既に以下のように言及されています。
社会の運営をAIに任せるようになった未来社会で、AIが「これからはカバを大切にせよ。指示に逆らうものは厳罰にする」と告げる。奇妙なこの指示は、実は食料危機も備えての施策だったと後になって分かる。このようなことが繰り返されるうちに、人間は盲目的にAIに従うようになってしまう。ある日、コンピューターが狂う。でも狂ったコンピューターの判断を誰一人として疑わず、皆が従っていく。
少なくとも当面は、人間に以下のような力が求められ続けるでしょう。
① 何を目指し、何が重要かを見極める力(目標設定力、課題形成力)
② 背景説明も含めた的確な指示や質問(プロンプト)をAIに与える力(言語化能力、論理力)
③ 非言語化情報やWEBに無い情報も含め、AIが学習できていないにないことに対しても、ある程度、即応する力
④ 何故かを分析し、AIの回答の正誤や真偽を判断する力
⑤ 自分の考えや行動を説明し、責任を取ること
ある意味「物知りな部下の一種としてAIを使うマネジメント力」が必要なのだと思います。
<参考図書>
「AI新世 人工知能と人類の行方」小林亮太、篠本滋、甘利俊一
「ChatGPTは世界をどう変えるのか」佐藤一郎
「生成AIと脳」池谷裕二
「未来イソップ おカバさま」星新一